美味しいお茶を頂くひとときは、日々の疲れを癒やすための、大切な日課ではないでしょうか。
やはり日本人ならば、茶葉を急須や鉄瓶で淹れたお茶を好む方も多いと思います。
鉄瓶の代表格とも云われる南部鉄瓶は、最近でもその持ち味が再評価され、伝統と堅実な職人技術によってつないでいく本物志向が、和の工芸品の存在価値の証とされているのです。
茶葉だけでなく、好事家の中には「コーヒーを淹れて」楽しむ人もいるほどです。
このように格式高い伝統と実用性が兼ね備わっている鉄瓶。
素材が鉄なだけに、錆びが発生していたら、せっかくのティータイムが台無しになってしまいます。
そこで今回は、鉄瓶の錆びについての対処法や除去法などをご紹介します。
目次
鉄瓶の特徴
鉄瓶は、有名な岩手の南部鉄器のほかにも、京都鉄瓶、石川県の加賀鉄瓶、更に山形鉄器など様々な地域で生産されています。
窯焼きの行程において、800~900℃で1時間炭火で加熱することで、鉄瓶内部にサビを防ぐ【磁性酸化被膜】を作ります。これは「金気止め」と呼ばれる技法で、南部鉄器発祥の技術です。
岩手県南部鉄器協同組合連合会の加盟業者以外の、他社メーカーで市販されている鉄瓶のなかには、この行程を省いているため、錆びが発生しやすい品質のものがあります。
鉄瓶の錆びは健康への影響はある?
万が一、赤みがかったお湯を飲んでしまっても、健康上の問題や害はありません。
鉄の錆は体にはまったくの無害です。
ただ、人畜無害とはいえ、赤いお湯ではお茶の色が濁りますし、味も劣化しますので敢えて飲むことはおすすめできません。
鉄瓶の錆びの発生原因&注意点
基本的には鉄瓶の中に水を入れっぱなしにしたり、使用後に乾燥しないで保存しない限り、錆びることはありません。
問題は、鉄瓶の中で一度沸騰したお湯が水になるという、水温が下がっていく過程が、鉄瓶の中に錆びが発生する一番の要因なのです。
また、鉄瓶を空焚きしたときも錆びることがあります。
ただ、もし鉄瓶が錆びてしまっても心配はありません。
内側に赤い錆が発生していても、そのまま使用できます。
逆に、錆を取るために間違ってもタワシ等でこするなどは、余計に錆が広がってしまいますので行なわないようにしましょう。
鉄瓶の錆び取り方法
①沸騰させる方法
錆びが出てきて、お湯が赤く濁るようであれば、そのままの状態で繰り返しお湯を沸かしてみてください。
【用意する物】
・水のみ
汚れ
手順
1.30分位沸かして、白い容器にお湯を注ぎ色合いを確認します。
2.お湯が赤いのなら、再度新しくお湯を30分沸かし、容器にあけてみて確認しましょう。
3.数回繰り返していくと、お湯が透明になってきます。
4.透明なお湯でも、鉄の味がする場合、まだ錆が残留してるので、再び沸騰させましょう。
②出がらしを使った方法
対処法1でもまだお湯が赤い、鉄っぽい味がする場合は以下の方法をお試しください。
【用意する物】
・お茶の出がらし
汚れ
手順
1.出がらしの煎茶をお茶パックなどに入れるか、ティーパックの煎茶を鉄瓶に入れます。
2.鉄瓶の八分目くらいまで水をいれます。
3.煎茶を20~30分ほど煮こみます。八分目から二分目まで湯が減るまでが目安。
※空焚きを防ぐため、中の湯が減ってきたら水を足していきましょう
4.鉄分とお茶のタンニンが化学反応で、真っ黒のお湯になります。そのまま1日程放置します。
5.翌日、黒い水を捨て再度お湯を沸かします。
6.透明なお湯になっているようなら、その後軽くすすぎます。
7.さいごに1~2回沸かしてから、通常通り使いましょう。
昔は、栗や芋の皮などを入れて煮こみ、錆防止をしていたそうです。つまりタンニンが抽出できれば良かったのですね。
③お米のとぎ汁を使った方法
鉄瓶を直火で空焚きしてしまったトラブルでも、以下の方法で対処できます。
【用意する物】
・米のとぎ汁
汚れ
手順
1.米の研ぎ汁を鉄瓶の六〜七分目まで入れ、鉄瓶のフタを取り、弱火で何度か沸かします。
※鉄瓶の内部にでんぷんの膜ができて、錆がコーティングされます。
2.研ぎ汁が赤く濁らなくなったら使用可能です。
もし、かなり酷い赤錆でボロボロの状態では効果が得られない場合もあります。その時は鉄瓶制作業者に修理を依頼しましょう。
鉄瓶の普段のお手入れ方法
①新品の鉄瓶
新品の鉄瓶には、「水を八分目まで注ぎ、鉄瓶を直接火にかけ沸騰させ、湧いたら湯を捨てる」を2~3回繰り返します。お湯が濁らなくなればOKです。お湯を捨てたあとに、蓋をとって余熱で乾燥させましょう。
※ただし、コンロなどの火が直接鉄瓶に当たらないように注意しましょう。弱火でお湯を沸かして下さい。ガスコンロの火が何度も鉄瓶の底に当たると、逆に錆びてしまいます。
※内部を洗剤やタワシ等で洗うと、酸化皮膜を剥離してしまう恐れがあるのでやらないで下さい。
鉄瓶を使いこなすには、2週間ほど【慣らし期間】をもうけ、この間毎日使用することがポイントです。
【慣らし期間】で大切なことは、内部の皮膜に傷をつけないこと、“湯あか”を早くつけることです。湯あかとは水の中に含まれる、カルシウムが固まることでできる薄い膜のことです。
鉄瓶を使用し始めて約10日~2週間で、内部が白っぽくなってきたら湯あかの膜ができたということ。これで内部が錆びにくくなっていくのです。
使い始めて5日目くらいに、赤く錆びたような斑点が出てきます。10日目あたりに白っぽい湯あかに覆われて、それ以降は鉄瓶のお湯は美味しくなり、内部が赤味がかってもお湯は透明を保つようになります。錆びと思って拭いたり、洗ったり、こすったりして取らないでください。
②通常のお手入れ
鉄瓶は普通の食器とは違って、内側も外側も『洗わない』のが原則です。お茶を淹れた後も、『すすぎ』レベルで大丈夫です。
【用意する物】
・乾いた布
汚れ
手順
1.鉄瓶の外側や蓋は、乾いた布巾で拭きましょう。
特に注ぎ口は錆びやすいので、よく乾かしましょう。
蓋をのせる溝のような部分(姥口といいます)も布で丁寧に拭いて、水分が残らないようにしてください。
2.内側は、使用後に空になった鉄瓶の蓋をとって、予熱で完全に乾燥させましょう。
または、蓋をとった状態で弱火で30秒ほど加熱するのもおすすめです。このとき空焚きは酸化皮膜がはがれるのを避けるため、1分以内にしましょう。
最近ではIH調理器が一般化してきてますが、鉄瓶をIHコンロで使用する場合、底が平らな鉄瓶なら使用可能です。底面が丸みのある鉄瓶はIHの熱が行き渡らず、使用不可となります。
そして、更に重要なのは、IHは電源を入れたら急激に加熱するので、必ず『弱火』で設定してから、数分後に『中火』にして沸かしましょう。
鉄瓶は急激に温度が常勝すると変形してしまうので、要注意です!
鉄瓶を長く使い続けるコツ
鉄瓶にお湯やお茶が入っている状態で、長時間放置してはいけません。
蓋や注ぎ口の部分も“濡れたまま”は良くないので、一に乾燥、二に乾燥、、を心がけて下さい。
また、鉄瓶は使用していくと使い始めより色合いが変化していきます。
油などがはねてシミが残ってしまうこともありますし、本体と蓋が擦れて赤い部分がでてきたり、底の部分などは火で焼けて漆が剥がれてきたり、沸かす際の熱源(ガス・炭・IH等)、使用頻度によってでも、様々な変化が起きます。
このような経年変化も工芸品の味わいの一つとして楽しめれば、愛着がわき、お気に入りの日常品として長く付き合っていけるでしょう。
まとめ
✔ 鉄瓶の内部には金気止めという焼き付け処理がされ、腸で吸収される二価鉄を摂取することで鉄分補給効果ある
✔ 鉄瓶は【慣らし期間】に湯あかで内部を覆うことで、錆び防止にも役立つ
✔ 鉄瓶の使用後は洗わず、すすいだ後必ず完全に乾燥させ、風通しの良い場所に保存する
✔ 鉄瓶にお湯を入れっぱなしにしたり、空焚きすると、錆びが発生する可能性が高くなる。
✔ 錆びが発生した場合、内部をタワシで擦ったりせず、赤みのある湯がなくなるまで数回沸かす
✔ 数回沸騰してもまだお湯の味が鉄っぽい場合、出がらしの煎茶を鉄瓶で煮出して、一日おいてから内部のタンニン鉄を捨て、再度沸騰してお湯が透明になるのを確認した後、再使用できる
✔ 米の研ぎ汁を沸かしてデンプン膜をつくって、錆びをコーティングする方法もある
✔ IHコンロでは弱火から沸かし始め、中火で沸騰させることで鉄瓶の変形が防げる
✔ 鉄瓶に発生した錆びは、健康上の害は無いが、お茶の色合いや味に支障が出るので、飲むことはおすすめできない